人は敵

両親は、他人に対して警戒心が強かった。

父はお酒を飲むと別人のように饒舌だが、

普段は大人しく礼儀正しく、

必要以上に堅くギクシャクした人だった。

母の兄にも敬語で作り笑いをしていて、

私は幼心に違和感を感じていた。

母は悲しそうな暗い顔のイメージが強い。

明るい印象はまるでないけれど、

怒る印象もあまりない。

私が思う母は、千と千尋の「カオナシ」だ。

母は祖母や父の妹が嫌いで

私によく愚痴を言っていた。

だけど、本人には決して言わず、

愛想良くしていた。

だから私は人が怖かった。

表面的にニコニコしていても、

陰で何を思っているのかわからない。

信じることなど出来なかった。

今冷静にこの両親のことを考えると、

自己肯定感が低く、

人を信じられずバカにしていて、

自分は弱いし周りは敵ばかりで

生きているのが辛かっただろうな。

と、思う。

だから私をコントロールして、

両親が安心したかった。

父母とも中卒や定時制卒で

学業コンプレックスがあったのか、

小学生の頃から地元の進学校に行け、

薬剤師になれなんて言っていた。

母があんまりにも祖母の愚痴を言うから、

私が祖母に反発すると、

「あんた達はそっくり。

喧嘩ばかりやめて。」という母。

かと言って私が祖母と仲が良ければ、

それはそれで嫌だったのだと思う。

何したって文句や愚痴の出る母。

「弱い母でごめんね。」

そう謝られたけど、余計困る。

ずるい女だ。

私はそんな両親の、

「社会は怖い。人は敵。」

という価値観をそっくりインストールした。

人は二面性がある、裏切る、信用できない。

だけど、そんな相手にも気を遣う。

いつだって自分より他人優先。

だから…まぁ。

正直変な人としか繋がれない。

そして私も、しがみつかない。

一人にならないように、

普通ぽくいられるように、

誰かと遊んでみる。

でも気を遣うし信じられないから、

執着しないし離れられてもホッとする。

それでもそんな自分に気付いてなくて、

ずっとモヤモヤ悩んでいた。